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私は、これまでに、何本かのブログで、自身が勤めている会社が民事再生を申立てた体験を、社員目線で書いてきました。それらの記事は、民事再生を経験して、もっとこうすれば良かったとか、こうすれば会社の再生はスムーズに行く、といったような内容で書いたものが主です。
今回は、実際に民事再生を考えている人の参考になるように、もっと事務的で、民事再生を考えたときから、実際に裁判所に申し立てて、再生手続きが終結するまでの流れを、実体験を交えながら書きました。
【民事再生とは】を分かりやすく言うと
民事再生とは、日本の法律用語で、経営が悪化して借金が返せなくなった企業や個人が、裁判所の管理の下で再生計画を策定し、債権者との間で合意を形成することで経済的な立て直しを図る制度です。
債権者との合意は、多くの場合、借金のある程度の部分が免除されたり、支払い条件が緩和されたりします。
民事再生は、破産と異なり、事業を継続して経済的に立ち直るための手段です。これは企業や個人にとって、重要な選択肢の一つとなります。
民事再生は社員を失業者にしない
会社が行き詰った場合、一般的には、破産して、従業員は即日解雇となり、残っている資産を処分して債権者に配当して終了という流れとなります。しかし、民事再生という手法を使えば、従業員はそのまま雇用が継続し、会社は引き続き業務を行うことが出来ます。
2023年にコロナ融資の返済猶予期間がいよいよ終了し、企業倒産が増加傾向となっています。そのような中で、何とか生き残る手段として、民事再生を視野に入れざるを得ない会社も多いのではないでしょうか。その際の参考にしていただければと考えています。
民事再生の意味とは
民事再生の意味とは、会社の経営が悪化して、どうしても資金繰りの目途が立たなくなってしまった時、民事再生という方法を使って会社の再生を図り、業務の継続を可能にすることです。
民事再生は、倒産と同じような感覚で受け取られがちですが、倒産ではなく、再生計画案の作成によって債務弁済についての計画を立て、それを実行することによって、これまで行ってきた事業を、継続することを言います。
民事再生の申立て方法
弁護士の選定
民事再生は、企業再建型の倒産手続きです。準備の第一番目は、申立て代理人弁護士を選定するところから始まります。民事再生の手続きを進めて、債権者や裁判所との対応を行ってもらう弁護士と契約します。
弁護士には、それぞれに得意分野が有りますので、民事再生や倒産処理などに専門性を持つ弁護士を選ぶ必要が有ります。

会社の株はどうなるのか
余談ですが、会社の株についての話をしたいと思います。
上場していない会社でも株式会社の場合、社員がある段階の役職者になると、会社の株を持たせるようにしている会社も多くあります。会社としては、将来上場を目指しているために、そうなった時に社員に利益が有るようにと考えているケースも有りますし、上の役職に就いた社員に、経営者側の意識を植え付けるという目的を持っているケースも有るでしょう。
もちろん、会社の経営が順調で、充分な利益が出ている状態なら、決算期には配当金がもらえるというメリットも有ります。
会社としては、社員にメリットがあるようにということなのですが、民事再生になった場合、会社は継続しても、会社の株は価値を失い、紙屑となります。
私も、会社の株を、300万円分持っていたのですが、民事再生の申請によって、ただの紙屑になってしまったという苦い経験が有ります。

申立てする際に準備すべきお金
1)予納金
申立代理人弁護士を選定したら、民事再生を裁判所に申立てる準備に入ります。
まずは、お金の用意が必要です。
民事再生を申立てる際には、裁判所に予納金を納めなければなりません。東京地方裁判所では、負債額によって予納金の目安が示されています。
<負債総額> <予納金額>
5千万円未満 200万円
5千万円~1億円未満 300万円
1億円~5億円未満 400万円
5億円~10億円未満 500万円
10億円~50億円未満 600万円
50億円~100億円未満 700万円
なお、100億円以上についても提示されていますが、ここでお話ししている中小企業にとっては無い金額だと思いますので省略します。

2)着手金
予納金の他に、申立代理人弁護士の着手金や、民事再生申立て後に事業を継続する際の運転資金なども必要です。
弁護士着手金は、弁護士それぞれによって異なりますが、一般的には、予納金の1.5から2倍くらいが相場のようです。弁護士費用については、着手金の他に法律的な問題に対処してもらうための顧問料も必要になりますし、民事再生が成功した際には成功報酬も発生します。

3)運転資金
民事再生を申立てた後は、民事再生開始前の債権は再生債権と呼ばれ、支払いは棚上げとなります。そのような状況の中で、材料を注文したり、外注先に仕事を依頼したりするためには、手形は使えませんので、多くの場合、現金払いが原則という形になります。
顧客への売上金が入金する前に仕入れ代金を支払うことになるので、2~3ヶ月分の仕入れ代金を、前もって用意しておく必要が有ります。
4)M&A仲介会社への仲介手数料の支払い
たいていの民事再生の説明では、この手数料の説明が無いことが多いのですが、バカにならない金額が発生しますので、ここでは、準備が必要な資金としてご紹介しておきます。
民事再生を自社独自で完結するケースの際は必要のない資金ですが、民事再生の多くの場合、スポンサーに会社を売却する形で、スポンサーを募ることがしばしば有ります。
この、スポンサーを探してくれる仲介手数料は、会社売却金額の5パーセント前後が一般的です。
例えば、月の売上額の予定が、1億2千万円くらいの規模の会社の場合、売却額が2億から3億円くらいのことが多いのですが、もし2億円なら、5パーセントで1千万円です。
きちんと予定を組んでおかないと支払えない金額ですので、注意が必要です。
仲介会社によっては、ある程度の着手金を要求する会社も有りますし、完全成功報酬型でM&Aが完了してから手数料の支払いとなる会社も有ります。
この点は、依頼する際に確認しておく必要が有ります。
再生手続きが始まった後の経営者はどうなるのか
民事再生は、手続きが始まった後も、従来の経営陣が会社の経営をやるということが原則となっています。倒産するような経営をしてきた人たちが、ふたたび経営をして大丈夫か、と思われるかもしれませんが、再生手続きが終結するまでは、そのような形となります。
もちろん、再生手続きが終結すれば、新しい経営陣でスタートすることが多いと言えます。スポンサーが付いた場合などは、スポンサーとなった会社から経営陣が送り込まれるという形になります。
裁判所に申立てを行う際の必要書類
・再生手続開始申立書
・弁護士に委任する旨の委任状
・会社の定款
・履歴事項全部証明書(会社の登記簿謄本)
・債権者一覧表
・決算書
・就業規則並びに労働協約
・所有不動産の登記簿謄本
・資金繰り表(過去1年間と今後の6カ月程度)
・今後の事業計画
・会社案内
これくらいの書類が必要です。すぐに提出できるものも有りますし、作成しなければならないものも有ります。
資金繰り表などは、仕入れ代金の支払い方法が、申立て前とは変わっていることなどを充分に考慮したものを作成しなければなりませんので、注意が必要です。
いずれにしても、弁護士とよく相談の上、用意するようにしましょう。
申立て前に注意すること
申立以後の業務をスムーズに行うためには、上席の役職者には、事前に民事再生を申立てる旨を話しておく必要が出てくると思います。そのとき、最も気をつけることは、外部に情報が漏れないようにすることです。
事前に知ってしまうと、先回りした回収行為を行ったり、わざと納品しなかったりということが起こり得ます。そのようなことにならないように、情報の管理には充分に注意しなければなりません。
申立て以降の手順
資産の保全処分
申し立てた後、即時に裁判所から、弁済禁止の保全処分決定が下されます。
これにより、民事再生開始決定以前の債権は、弁済禁止となります。この債権は、およそ半年後の再生計画確定後に、決められた条件で支払われることになります。
債権者説明会
再生手続きを進めていくためには、債権者に民事再生を理解してもらい、協力してもらうことが不可欠です。
そのためには、債権者に対して、丁寧な説明を行うことが必須となります。そこで、民事再生を申し立てた後、速やかに債権者への説明会を開く必要が有ります。説明会は申立てた1週間後くらいをめどに開催します。
一例ですが、私が勤務していた会社は、地域の公会堂のホールを借りて行いました。客席側には債権者が座り、ひな壇には社長をはじめ役員と弁護士が座ります。
受付や案内係は、役職の社員や総務課社員などで対応すると良いでしょう。
再生手続き開始決定
申立から1週間程度で、裁判所にて、再生手続き開始が決定されます。
いよいよ、再生手続きがスタートするわけですが、大切なことは、再生債務者(民事再生を申立てた会社)の事業を、きちんと黒字が出るように改善しなければなりません。
そのためには、仕事の中身を見直し、赤字を生む仕事は速やかに撤退することが大切です。
民事再生の申立て前は、顧客との付き合いの中で、赤字と分かっていながら続けてきた仕事が有った場合、値上げを申請するか、またはその仕事は撤退するかを顧客と話し合うことが必要です。
再生計画案の作成
再生手続きが開始した後、再生債務者は、裁判所に、再生計画案を提出しなければなりません。再生計画と聞くと、売上をいくら上げて、人件費をいくらにして、というようなものを想像しがちですが、ここで言う再生計画案とは、今後債権者に対して、どのように弁済していくかの計画案を記載した書面のことを言います。
再生計画案を作成するために行うこと
まず、再生債権者から、債権届を提出してもらい、それに対して、再生債務者の認否書を作成します。これによって、再生債務者の負債額を確定させます。
再生計画案の内容
民事再生の場合、債権の支払いをどの程度カットするか、また、カットした後の債権をいつまでに支払うかなどを記載することになります。
議決について
再生計画案の内容に賛成か反対かを、債権者が投票することになります。
再生債権合計額の半分以上なおかつ、債権者の半数以上の賛成によって、再生計画案が認められるかどうかが決まります。
たいていの場合ですが、債権者は数が多いと思われますので、半分以上が反対となるケースはまれでしょう。債権額の半分以上となると、銀行が賛成するかどうかにかかっていると思われますので、結局は銀行が賛成するかどうかで決まる場合が大半かも知れません。
再生計画の認可が決定
再生計画案が過半数の賛成によって可決された場合、裁判所に再生計画が認可されます。
一般的なスケジュールとしては、申立てから再生計画認可までで、6ヶ月以内となっています。
再生計画が認可されますと、いよいよ、再生計画の履行となり、再生債権の弁済となります。
いつ再生手続きは終了するのか
再生計画が認可された後、3年間後に再生手続き終了となります。それまでは、裁判所に任命された監督官の監視下にあるということになります。
今回は、民事再生を実行するための事務的な手順を中心に解説しました。
民事再生を成功させるためのテクニックについては、私のブログ、「民事再生を成功させる大切なポイント」をご覧いただきたくお願いいたします。
